日本の自然描写や春夏秋冬の景色は外国語に翻訳できない。

      2021/04/30

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1与謝蕪村

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」川端康成「雪国」

この「雪国」の英訳が出たのは1957年のことです。
翻訳したのはアメリカ人のサイデンステッカーである。

川端康成がノーベル文学賞を受賞したのは1968年のことでした。
この文章で「夜の底が白くなった」という部分は有名です。

しかし「夜の底」は川端康成の発明ではありません。
芥川龍之介の「羅生門」に、「下人は…またたく間に急な梯子を夜の底

へかけ下りた」という文があります。
文脈から「真っ黒な空間の下の方」という意味以外にはありえない。

「夜の底が白くなった」という文はどのような光景を表そうとして
いるのでしょう。

言葉の使い方が詩的であり、読んだ瞬間に意味が澄み渡るように
伝わるわけではありません。

サイデンステッカーはこの文章を「黒い空のもと大地が白く
横たわっている」と翻訳した。

これでは、原文の「真っ黒だった夜空がぼんやりと明るくなった」
という汽車の時間が景色を変えたことが表現されていません。

漱石の「虞美人草」には「見上げる頭の上には、微茫(かすか)なる
春の空の、底までも藍を漂わして」という一節がある。

熊倉千之の「日本人の表現力と個性」では「日本人が観察によって
世界を認識する過程とは異なり、西欧の言語はアプリオリに存在する

世界を先取りしていることだ。日本語との根本的な差異は、具象に
対する抽象、主観に対する客観、内なる言語に対する外なるものだ」

と述べている。
原作と英語訳の表現の違いが、日本語と西欧語の本質的な違いだと解る。

「翻訳の授業」東京大学最終講義山本史郎著朝日新書参照

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