イマニュエルカントは「純粋理性批判」で二律背反を問うた。
宇宙に始まりがないとすれば、いかなる出来事もそれに先立って
無限の時間があることになる。
しかし、それは不合理である。
逆に宇宙に始まりがあれば、宇宙の始まる以前には無限の時間が
あったことになる。
いずれも宇宙が永久に存在しようとしまいと時間は永久に遡る
ことができるという仮定の上に成り立っている。
しかし宇宙が始まる以前の時間という概念は無意味である。
19世紀まで宇宙の始まりの問題は形而上学または神学の問題であった。
しかし1929年にエドウィンハッブルが、どちらの方向を見ても遠方の
銀河はわれわれから急速に遠ざかっているという画期的な観測を
行ったのである。
言いかえれば宇宙は膨張しつつある。
146億年前にはすべての天体が同じ場所に集積し密度は無限大であった。
この発見により、宇宙の始まりの問題は科学の領域となった。
ハッブルの観測は「ビッグバン」を示唆した。
1905年アインシュタインは「特殊相対性理論」を発表した。
この理論の基本的前提は、等速で動いているすべての観測者に対して
その速さがどうあろうとも、科学法則は同一であるべきであるという
ものである。
ここでE=mC²というエネルギーと質量の等価性および何者も光速より
速く動くことはできない法則が示された。
アインシュタインは重力は他の力とは異なり、時空がそれまで想定
されていたように平坦なものではないことから生じる効果だという
革命的な考えを打ちだした。
時空はその中に質量とエネルギーが分布しているため湾曲している。
地球のような物体が湾曲した軌道を描くのは、重力に動かされている
のではなく、湾曲した空間内で測地線と呼ばれる直線経路にもっとも
よく似た経路をたどっていることにすぎない。
太陽の質量は時空を湾曲させており、そのために地球が四次元時空の
中ではまっすぐな経路をたどっているにもかかわらず、三次元空間
では円軌道を描いているようにわれわれには見えてしまう。
現代の宇宙像はエドウィンハッブルがわれわれの銀河が唯一の銀河
ではないことを証明した1924年までしかさかのぼれない。
ハッブルは大部分の銀河が「赤方偏移」を示していることも証明した。
銀河はわれわれとの距離に比例して速く遠ざかっていることも。
今世紀はじめまでは絶体時間が信じられてきたが、相対性理論により
時間は縮むことを認めざるをえなくなった。
「ホーキング、宇宙を語る」スティーブン・W・ホーキング著 早川書房参照