能は光と影の演技であり、そこには四季が存在する。

      2020/10/28

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「能の舞台に立つと、何かが降りてくる」といわれる。
何かが動かしている。

観世流シテ方能楽師の梅若実は2014年に人間国宝となった。
2015年7月にギリシャのエピダウロス古代劇場で能を演じた。

ギリシャの古代劇場はもともと神々の物語を演じた場所である。
古代の舞台は観客にとり「神々の降臨する場所」なのかもしれない。

梅若実は2001年9月11日の貿易センタービルのテロがあった翌年に
ニューヨークに行って供養を行った。

白い能面に白装束。
手に一輪の白い薔薇。

女神が静かに舞いながら、白い薔薇をそっと舞台に置く。
本物の女神の慈悲を見たような感動を覚え、これこそ鎮魂の「祈り」と感じる。

薔薇はニューヨーク州の花である。
梅若という能役者はどういう存在なのか、芸能の力の向こうに、心や精神を

越えて存在する何かが姿を動かしていたのだろう。
演目の名前は「祈り」、謡はやめて声明と笛、小鼓。太鼓だけで行った。

能役者は舞台に立って動くだけの存在で、上手いとかまずいとか考えては
駄目であり「上手いと思った時には、もうその曲は駄目になる」。

能の型の半分は意味がない。
両手を構えて前に出す「さしこみ」という動作の呼吸は吐き続けることだ。

これは剣道と同じ。
フランスの作家ポールクローデルは「能では何事かが起こるのではなく

何者かが現れる」と言っている。
美内すすえ対談集「見えない力」梅若実 世界文化社参照

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