漱石の「夢十夜」には運慶の「仁王」が描かれている。

      2020/05/15

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福井謙一さんが京都大学の教授になったのは、私が生れた年
の1951年であった。

1981年に受賞したノーベル化学賞の発想の原点が、この時
胚胎するのである。

化学反応は原子、分子のレベルで起きるものであるが、その
原子、分子の世界を支配する法則は量子力学である。

それは、たとえ宇宙空間や他の天体で起こっている化学反応
でも、昆虫の体内で起こっている化学反応においても変わらない。

したがって、すべての化学反応は、原理的には量子力学の言葉
(概念)で説明できる。

この言葉は、複雑な計算を要するためにそれを読み取るのが
きわめて厄介であるが、この言葉は重要である。

その言葉の一つに「軌道」というものがある。
福井先生はこの言葉を化学反応の仕組みを説明するのに使え

ないかと思いついた。
化学反応とは化学結合の組み替えであるが、その化学結合とは

ほかでもなく、分子の中の原子と原子とを結ぶ手のようなもの
である。

軽い粒子の電子が化学結合を起こし結合する原子が電子を出し
合って結合ができている。

軌道とは、その電子が、原子あるいは分子の中でどのように
動き回っているかを近似的に表現する概念である。

原子、分子の中の電子は、例えば光ですら0.3ミクロンぐらい
しか進まないほど短い時間にその中を一周するような、非常に

速い運動を行っており、しかも、きわめて複雑な動き方をする。
軌道とは数学的にいえば一つの関数で表されるが、つまりは

表現しにくい電子の動きを言い表すための言葉のようなものに
ほかならない。

福井先生はこの「軌道」という言葉を化学反応の仕組みを説明
する上で使おう考えた。

軌道という概念で化学反応を議論する着想と、福井先生のモデル
は、ともに有機電子説では説明できない芳香族炭化水素の化学

反応をテーマにしたことで、生れたのである。
このモデルは、静的問題と動的問題とを明確に区別しなければ

ならないという前提に立っていた。
原子と原子が分子をつくる時にその結合にあずかる電子と似た

立場にある電子が重要な役割を果たすと考えた。
これは大変に、原始的な考え方である。

こうしてこの理論は、化学反応を分子の間の電子の「にじみ出し」
にあるものとして特徴づけられるようになった。

およそ新しい着想というものは、一度思い浮んでしまうと、実に
他愛のないものに感じられる。

人間がなぜ最高傑作なのか。
それは人間と他の生物を比較してみれば明らかである。

ノーベル賞のメダルの表には「アルフレッド・ノーベル1833年生れ
1896年に死す」というラテン語の文字が刻まれている。

裏には
「技芸の発見によって生を豊かにすることは益がある」と書かれる。

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