天才の作品には、本質的に永遠な、ある一つの意識が潜む。

      2020/04/07

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「精神は文体を持たぬ」これは文芸の道を最も逆説的に
洞察したヴァレリーの言葉である。

精神が肉体に比べて、遥かに自由に、神速に運動し
平然と人々の脳中に滲透して安住し、人々もまた

外来の精神をわが物顔に振り回せるのは
これが為だ。

幾千年の伝統も、僅か数年の風潮に姿をかくすと
見えるのもこれが為だ。

「この偶像、眼は黒く、髪は黄に、親もなく、諂(へつら)う人もなく
物語よりも気高く、メキシコとフラマン(フランドル)の混血児その住む処は

思いあがった紺碧の空、緑の野辺、船も通わぬ波濤を越えて、猛々しくも
ギリシャ、スラヴ、ケルトの名をもって呼ばれた浜辺から浜辺に亙(わた)る」

轍わだち
「右手に、夏の曙は、この公園の片隅の木の葉や靄や物音を目覚まし
左手の斜面は、菫色の影の裡に、湿った道路の上に、数知れぬ急勾配

の轍をみせている。魔法の国の行列か。違いない。どの車も金泥の
木造りの動物を満載し、旗竿をかかげ、色とりどりの幕を張り

幾頭もの曲馬のまだら馬、逸散に駈けるにつれ、子供も大人も皆
とんでもない動物の背にまたがり、漆黒の羽飾りを立てた、闇の

天蓋に被われて、棺桶までが幾つも幾つも、蒼く黒い大きな牝馬の
駆けるにつれて繰り出して来る」

眠られぬ夜
「明るい休息だ、熱もなく、疲れもなく、寝台の上に、草原の上に。

友は、烈しくもなく、弱くもなく。友よ。
愛人は苦しめもせず、苦しめられもせず。愛人よ。

尋ね歩く仔細もない空気とこの世と。生活。
では、やっぱりこれだったのか。夢は清々しくなる。」

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