日本初のノーベル文学賞は、50年前1968年川端康成が受賞。

      2018/08/30

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1坂口安吾

「伊豆の踊子」の主人公の青年と「雪国」の島村は人格に
似たものがあり、梶井基次郎の「檸檬」も似た人間がいる。

黒澤明の「夢」(1990年)という映画は、原子力発電所の
爆発を描いているが、無人の町の中に桜並木が見える。

自然破壊の怖さは、動植物が消えるのではなくバランスが
崩れる形で人間に姿を突き付ける。

櫻が咲き誇ると人々は喜んで櫻の木の下で酒を飲んで騒ぐが
実は櫻の木の下で気が狂うこともある、と書いた坂口安吾の

「桜の森の満開の下」(1947年)の冒頭は今でも人口に膾炙
している。

これについて安吾は、東京大空襲で人が死んでいく中、櫻だけ
が満開であるのを「異様に」感じたと書いています。

実は植物は人間にとって他者です。
人類が戦争や原発で自滅しても、櫻は涙を流すこともなく

ますますたくさんの花を咲かせ、福島のタンポポも何も
無かったの如く黄色い花が満開になり綿毛を飛ばす。

川端康成に「眠れる美女」という作品があります。
三島由紀夫が「雪国」は表の傑作、裏は「眠れる美女」と言った。

ここに江口という老人が主人公で登場します。
この人の通う娼家では、娼婦は睡眠薬を与えられ眠らされる。

薬は強く娼婦は客が来て隣に横になっても目を醒ますことは
ありませんが、まぶたや身体が動いて目を醒ましそうに見える

瞬間、江口は特に興奮するらしい。
一休禅師に「仏界易入、魔界難入」という禅語があります。

禅で言う魔界は、自我が肥大して精神のバランスが崩れた
状態をさすらしい。

瞑想していて自我を越える前に、あちらに行く状態で大変
危険な一瞬なのです。

魔界に入ることは難しいという言い方は、禅の否定哲学で
面目躍如というところです。

川端康成に言わせると文章の条件は、簡潔、平明ということで
良い文章は修飾の多い、いわゆる美文ではない。

センテンスの短い志賀直哉の文章。
そして自身も、そのように心掛けた。

川端康成は1964年の東京オリンピックから4年後に文学賞を
受賞し、1970年11月に三島由紀夫は森田に首を落とされ

1972年4月16日逗子の仕事部屋でガス自殺します。
「眠れる美女」の世界を自分で実行したのだろう。

川端康成文学賞ができたのは、1973年4月のことです。

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