「母性」否定する女性は、父母から誕生した事も否定しうるか。
2018/08/23
富岡多恵子さんは1935年大阪生れ。
多才な人で小説家、詩人、評論家そして評伝や台本も手掛けます。
彼女の「藤の衣に麻の衾(ねまき)」というエッセイ集は1984年
に発表されました。
このエッセイ集はリブを含む同時代の女性問題を論じています。
リブには少し年長で、リブの運動には加わらないが判走する人がいた。
この年長の女性たちの仕事は「自前の思想」を求めて苦闘していました。
リブの女性たちに大きな示唆を与えたと上野千鶴子先生は言っています。
この年長の女性たちはリブの登場に対し態度を二分させた。
一方はリブに距離をおき、反感を示した女性たち。
他方は共感してエールを送った女性たち。
富岡多恵子さんは後者に属します。
「産の思想」を思考する上で、「人間が生きのびる」ことをめぐる希望と絶望の
言説は、どちらも「女がつくる思想」だが男もまた直面することを迫られている。
1994年に上野先生は以上のように述べています。
民族学者の梅棹忠雄は1959年に、自分の人生を喪失してまで母の立場に埋没せねば
ならぬ妻たちを「母という名の城壁のなかから、一個の生きた人間としての女を
すくいだすには、どうしたらよいだろうか」と婦人公論誌上で嘆じた。
富岡多恵子の評伝「中勘助の恋」には友人和辻哲郎の幼い娘への思慕、愛着が
書かれています。
「強固な家父長制は娘、嫁、母、妻、妾のような役割によって女を分断して
未分化の女が生きるステージを与えない。」
「哲学者和辻哲郎が、幼い長女へ届く勘助の度重なる恋文に無頓着であったのも
倒錯に対する親和性がきわめて高い家父長制の社会に生きていたからだ。」
戦後、家父長制は終わったが、私が考えるに「家」と「戸籍」制度は頑なに
維持されているので、リブ運動の前にこの二つの法制度を改革しなければ
何も根本的には変わらないのではないだろうか。
一つはフランス方式の「一人一戸籍」である。
おのずと「家」も解体されます。